2. 雨乞いの贖罪

4/4
前へ
/14ページ
次へ
 くだらないことを言い合った。私的なことはお互い尋ねなかった。名前ですらも。それでも心地良かった。それが心地良かった。街が眠っても、夜が更けても、俺達は止め処なく話し続けた。  もし友達がいたら、こんな感じなのかな。俺の周りにはいつも年上しかいなかったから、新鮮で心地良かった。だが、俺は殺し屋で少年は善良な市民。友達にはなれるはずはない。勿論、そこは弁えているさ。その事実に少し悲しくなるけれど。  疲れたのだろうか、いつの間にか少年は船を漕ぎ始め、そのまま夢の世界へ行ってしまった。小さく寝息を立てて気持ち良さそうに眠る少年を起こす気にはならなかった。だが少年の家は知らないし、俺の家は人を呼べるほど綺麗じゃない。かといってこのまま置いていったら危ない。俺は仕方なく、少年を木陰のベンチに運んだ。持ち上げても起きる気配はなかった。  このまま側に居てやりたいところだが、流石に帰らなければならない。上着を被せてやろうと脱いだところで、雨のせいで濡れて冷たくなっていたことを思い出した。これでは風邪を引いてしまう。唯一濡れていなかったのは小さめのタオルだけ。毛布の代わりは到底務まらないので、枕代わりに少年の頭の下に敷く。序でに少年の頭を優しく撫でると、口角が少し上がったような気がした。  また近いうちに少年に会えるだろう。家も名前も知らないし約束もしていないけれど、そんな気がした。  天を仰ぐと、丁度夜が明けるところだった。世界に俺と少年の二人しかいないみたいだった。こんなにも綺麗な朝焼けは初めてだ。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加