3. 幻想の外持雨

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3. 幻想の外持雨

 あの日を堺に、俺達は気まぐれに会うようになった。日時も場所も全く約束を取り付けず、ふらふらと会っては夜が更けるまで他愛もない話をした。  少年は事あるごとに、夜になるとこっそり家を抜け出して徘徊しているそうだ。場所は様々だが、少年が歩ける距離なんてたかが知れている。それにこの前のようなことが起きないよう、危ない地区と安全な地区を俺がみっちり教え込んでおいたから、範囲はまあまあ限られてくる。俺は少年が出没する地区を大体把握し、居そうなところに見当を付けて探し回る。そのおかげで約束無しでも会うことができた。  残念ながら少年が会いたい時に、俺に会うことは難しい。昼間は学校に通い(サボることもよくあるそうだが)夜は暇な少年に対し、俺は昼間は寝るか一般人として過ごし夜は仕事をしている。昼は互いに都合が合わないから、会うなら夜だ。だが、仕事中の俺を見つけるのはほぼ不可能。そういう訳で、俺からしか会いに行けない。  (そもそも)少年が俺に会いたいと思うことがあるのか知らないけれど。俺が一方的に会いたくて、押しかけているだけかもしれない。  お互いのことは全然知らないし、友達とは少し違う不思議な関係。少年はどう思っているだろう。怖がられているのではないかという懸念はもう無くなったが、少年の心中は察せない。息抜きの話し相手くらいにはなれているだろうか?俺としては、もう少し仲良くなりたいと思わないでもないが。  今夜は任務が早めに終わった。これから少年に会いに行く、と言いたいところだが、返り血がべっとりついた服のまま会いに行っても気味悪がられるだけだろう。やはり任務終わりに会うことは厳しい。今夜はもう諦めて歩き出す。  ふと、冷たい水が頬を伝った。天を見上げるも雨は降っていない。元より今日は雨が降らない予定だった。念の為言っておくが、勿論俺の涙ではない。  少年が俺を呼んでいる、気がした。なんの根拠もないけれど、一度思うとそうとしか考えられなくなった。俺は居ても立っても居られず、自分の服が汚れていることも気にせず一目散に駆け出した。  今日の少年探しは何時にも増して簡単だった。晴れ渡る空に、一箇所だけ雨が降っているところが見えたから。少年に会う時、何故だか雨が降っていることが異様に多かった。少年と雨は何の関係もない。だが、少年が雨を引き寄せているように思えてならなかった。いや、少年は確実に雨に愛されている。  そこは住宅街を抜けた先にある小さな森だった。遠くから見た時は確かに雨が降っていたのに、いざ入ってみると先程の光景が幻だったかのように森は乾いていた。  まるで見つけられるのを待っていたかのように、足跡だけがくっきりと残っている。暫く辿っていくと、木に背中を預けて立っている少年の姿が見えた。矢庭に声をかけては驚かせてしまう。一人で思い悩んでいる時に人と会うのなら、心の準備が必要だろう。  俺は態と足音を立てながら歩いた。少年はゆっくりと顔を上げ、こちらを向いた。
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