1. 哀憐の慈雨

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1. 哀憐の慈雨

 天から見下ろすこの街の景色は(さぞ)美しいことだろう。夏は汗ばむ陽気に、冬は刺すような冷気に包まれるこの盆地は、住みづらい気候の割に栄えていた。中心街にはビルが幾つか建ち並び、夜にはならず者共の蚊柱を立たせている。気を(てら)わない住宅街が散在し、隅には影を纏う貧民街もある。そして人々の営みを見守るかのように、鬱蒼とした森が街全体を囲んでいる。  当然、無垢な市民の方が多いのだけれど、やたらと悪行の多い物騒な街だった。遠くの山に日が沈んでゆき、不気味な月が辺りを照らすのが合図。良い子は皆家へ帰り、街は無法者達の独擅場(どくせんじょう)となる。襲われたって誰も助けてくれやしない。必死の悲鳴は闇に溶けていく。雨が降っているときは特に気を付けなければならない。街灯が点滅する通り。暗がりで先の見えない路地裏。閑静な森の奥深く。夜も眠らぬビルの足元。無法者達がどこに潜んでいるかは分からない。決して好奇心で近づくことのないよう────
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