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「今は彼女も機能性の時代よね」  今朝、僕の家にやってきた玲衣は突然そんなことを言い出した。  勝手知ったる僕の家で彼女が二人分のコーヒーを淹れて、ソファでくつろいでいたときだ。 「最近は便利なグッズが多いじゃない。自動で運転してくれる車とかすごく軽いノートパソコンとか飲むだけで痩せるサプリとか」 「最後はちがう」 「だから恋人にも機能性が必要ってわけ。装介くんも機能性がない彼女より機能性がある彼女のほうがいいでしょう?」  僕はとっさに答えられなかった。そんなの考えたこともなかったからだ。  しかしその一瞬の沈黙を肯定と捉えたのか、玲衣はうんうんと頷く。 「わかってもらえて嬉しいわ。そう、この世のあらゆる美の頂点に立つのは機能美なのよ」 「そこまではわかってない」 「だからね」  どうやら僕と彼女の美学は違うらしい。だがそんな主張をまったく聞かない彼女はそのまま話を続けた。  とんでもない話を。   「だから私、ポケッタブルになったの」    しんと静まり返る。僕は何の反応もできなかった。コーヒーから漂う香りが無ければ時間が止まったかと思ったかもしれない。  少しして、僕はようやく口を開く。 「……えっと、ポケッタブル?」 「ポケットに入る大きさって意味よ」 「意味はわかるけど意味わからん」  急に何を言い出すんだ。  ポケットに入る? 人間が? 「そんなの無理だろ」 「人間の体内には6、7メートルの小腸が収まっているそうよ」 「内臓と同じシステムなのか」 「意外とやってみたらできたりする、っていう話よ。まあ見てもらった方が早いわね」  そう言って玲衣は立ち上がり、クローゼットから僕のジャケットを取り出した。 「はい、これ着て」と言われるがままにジャケットを羽織る。
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