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「あら、素敵なカーディガンね。このポケット入りやすそう」
「ポケットの入りやすさで服選んでる人はじめて見た」
ギフトショップでやけに派手な青色のカーディガンを眺めていた玲衣は肌触りを確かめるように袖の辺りに触れた。
僕は普段モノクロの服ばかり選んでしまうが、玲衣は鮮やかな色合いの服を好む。そして難なく着こなしてしまうのだ。きっとこの色も彼女によく似合うのだろう。
「さらさらして気持ちいいわ。さぞポケ内環境も快適でしょうね」
「口内環境みたいに言うな」
「ポケ内環境は大事よ。通気性が高いと息苦しくないし、生地が薄いと破れそうで不安だしね」
「僕のコートはどうだった?」
「埃っぽかったわ。ちゃんと掃除しといてよね」
「人が入る予定じゃなかったんだよ」
玲衣はカーディガンから手を離して隣の雑貨を眺めた。
別に何かを探しているわけではなく、ただ綺麗なものやかわいいものを見て回るのが楽しいのだそうだ。僕は今までウィンドウショッピングはしたことがなかったのだが、彼女に付き合っているうちにその楽しさがわかってきた。
「結構混んでるな」
「こんなときポケッタブル彼女ならはぐれないわよ」
「この大衆にトラウマを植え付ける気か」
「なんでよ。私のポケッタブルはホラーじゃなくて芸術でしょ」
「一般人代表の僕が断言するがあれは全米を震撼させるレベルだ」
僕が自分のポケットをしっかりと手で塞ぐと、玲衣は不満そうな表情で渋々歩き出した。成人女性がコートのポケットに入っていく様子は破壊力がありすぎる。
休日ということもあってテーマパークは混雑していた。
確かにこれなら迷子の一人や二人出てきてもおかしくなさそうだが、僕たちはもう立派な社会人だ。そう簡単にはぐれない。
「ひどい言われようね。このためにダイエットもしたのに」
「あれ、そういえば全然重くなかったけどどうなってんだ? スマホくらいの重さだったぞ」
「装介くんの全身に私の体重を分散させることで重さを感じにくくしてるの」
「ポケットの中でどんだけ高度なことしてんだよ」
「ふふん、これが機能美よ」
得意げに微笑む彼女は「あ、これ素敵ね」とトーテムポールを模したランプを手に取った。
スイッチをつけるとトーテムの目が光る。ただでさえ厳つい見た目だというのにさらに迫力を増してどうする気だ。
「これ防水みたいよ。最高じゃない。バスタイムにどうかしら」
「リラックスできなさそうだからやめてくれ」
唇を尖らせながら玲衣はしぶしぶトーテムポールランプを棚に戻す。
やはり僕とは美学が違うようだった。
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