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「どう? これがポケッタブル彼女の真価よ」
「まさかこんな使い方があったとは」
玲衣は今コートのポケットではなく、その下に着ているパーカーのポケットに入っている。
どうしてもそっちがいいと彼女が言い張ったからだ。その前に「そろそろ頃合いね」と空を見上げていた理由もようやくわかった。
「めちゃくちゃあったかいなこれ」
「ふふふ、抱きしめられてるみたいでしょ?」
ポケットの中にいる彼女の体温が僕の腹部から身体全体を温めてくれていた。
日が暮れて夜になってもまったく寒さを感じない。彼女の言うように正面から抱擁されているような温度と安心感だ。それでいて人目も気にならない。
玲衣がコートの下にはパーカーを着るよう言っていたのはこのためだったのか。
「私もあったかいし良いこと尽くめよ」
「最高かよ。でもそろそろショー始まるから出ておいで」
コートのボタンを開けると、彼女の右足が地に立ち、そこを起点にスムーズに展開する。この映像だけは見慣れない。
「まだここ穴場なんだな」
「こんなに人がいるんだから見つかってないわけないわよね。寒いからかしら」
一理あるなと頷く。
僕たちが数年前に見つけたこの場所は人がほとんどいないのに夜のショーが見える絶好の場所だった。
ただここは水場が近く、冬は冷えるし夏は虫が多い。春や秋ならもう少し人がいるのかもしれない。
「あ、始まったみたい」
遠くから音楽が聞こえてくる。続いて鮮やかなレーザーライトが夜空を走ると、あちこちから歓声が沸き起こった。
閉園二時間前に行われるこのショーはここの名物であり、フィナーレだ。
ショーが終われば、楽しい時間も終わりを迎える。
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