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「楽しかったな、今日」 「そうね。楽しんでもらえてよかったわ」 「それテーマパーク側のセリフだろ」 「心境は同じよ。ちょっと不安だったの」 「不安?」  玲衣は遠くからやってくる煌びやかな演者やキャラクターたちを見つめている。  瞬くたびに色の変わるレーザーが彼女の横顔を彩るが、その表情はライトの華やかさとは対照的だ。 「私がポケッタブルになっても装介くんはあんまり嬉しくないんじゃないかって」  リズミカルな音楽の群れに混ざる彼女の声は落ち着いていた。悲観的でも楽観的でもなく、どちらに振れるか迷っているような声色だ。 「私たちって気は合うけど色々違うでしょ? 趣味とか好みとか」 「確かにな」 「だから私がいいと思ったことも装介くんにとっては良いものじゃないのかもって思ったり」 「そりゃそういうこともあるよ」 「まあそうなんだけど」  玲衣は形のいい唇の端を少し歪ませて苦笑いをする。  その唇が薄く開いて、わかってはいるんだけどね、と隙間から小さく零れた。 「この間、昔の彼女の話聞いたじゃない」 「ああ、あったな」 「あの装介くんの『こう見えてオレ実はけっこうモテるんだぜ』マウントに対抗すべく私も機能性マウントを獲得したわけだけど」 「そんなマウントバトルじゃなかったはずだが」 「似たようなものよ。勝ちたくなったの。一番になりたかった」    甲高いラッパの音が明るい夜空に鳴り響いた。そのやけにハッピーな音が彼女の静かな言葉を際立たせる。 「今まで装介くんが付き合った人たちの中で一番になりたかったのよ」  玲衣の告白に、僕は納得しつつも驚いてしまった。  確かに昔の話をしたとき拗ねてはいたが、一過性のものだと思っていたからだ。  彼女はいつも自分に自信を持っているものだと思っていたし、僕はずっと伝えていたはずだった。 「玲衣は一番だよ」 「当然知ってるわ」 「なんなんだ」 「装介くんの気持ちは貰ってるし、私が一番なのも教えてもらってる。それを疑ってるわけじゃないのよ。でも私、もっと欲張りでね」  彼女がこちらを向く。  色のついた光と色のない闇がその微笑みを半分に分けた。 「装介くんが思い返す全部の瞬間で一番でいたいの」
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