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「びっくりしすぎて昔の男の記憶ぜんぶ飛んだわ」 「よし狙い通り」 「なんて物騒な人なのかしら」  最後に乱れ咲いた花火が散り消え、辺り一帯には観客の騒めきだけが残っていた。  しばらく言葉を失っていた玲衣もショーが終わった静けさで目覚めたようだ。呆れたような、けれど奥底に喜びを潜ませたような笑みを浮かべる。 「私をポケッタブル彼女からポケッタブル婚約者(フィアンセ)にしようなんていつから考えてたの」 「それは今の今まで考えたことなかったけど」 「じゃあ今、してくれる?」  すっと彼女は自分の左手を持ち上げる。  その手を取って僕は薬指に指輪を通した。色味のないシルバーのリングだったが、それすら彼女にはよく似合っている。 「ありがとう。嬉しい」 「喜んでくれてよかったよ」 「どのくらい嬉しいかというと、私がはじめてポケットに全身収められたときくらい嬉しいわ」 「喜びすぎじゃない?」  ポケッタブル成功の瞬間より嬉しいことなんてこの世にあるのか。  僕はそう思ったが、彼女は「そんなことないわよ」と否定する。 「この思い出はずっとポケットの中にしまっておくわ」  花が咲くように玲衣は微笑んだ。  それが彼女にとって最大限の愛情表現ということくらい僕にもわかる。
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