火渡り

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火渡りが終わり、片づけを手伝っていると一人の年老いた男が、私の元にやってきた。この町内の人のようだ。 どうやらずいぶん飲んでいるようで、上機嫌だ。お近づきの印にと、彼は酒を勧めてくる。断る理由もないため、私は遠慮なく、お猪口(ちょこ)を差し出した。 「君はあまり見かけない顔だが、最近引っ越してきたのかい」 真っ赤な顔をして、笑いながら言った。 「…いえ。私はここの孫にあたりまして」 そう返すと、男は 「えっ?ここのばあさんの?それとも、ばあさんの妹のほう?ここの坊主も、好き者だからね……いけね、そんなことを言っちゃ。へへへ」 それだけ言って、彼は去って行った。 言葉少ないあなたの母にも、秘め事があるのか。あなたの母が妹と絶縁である理由は、何なのか。まさか……。 私は足早に、その山寺を去って行った。もう二度とここへは足を運ばない、と固く心の中で誓った。
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