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あなたは彼を見つめながら、「従兄弟だから、仲良くしてね」と口癖のように言った。私はその言いつけを守り、その男の子とどうやって仲良くなろうかと考えていた。
何せ10歳にも満たない時分のことだ。火渡りの準備をしている大人の間を駈けずっていくうちに、私たちは上機嫌になっていた。こうして、あっという間に打ち解けることができた。
この日も彼は、寺に現れた。もちろんあの頃に比べると遥かに大人になってはいたが、目元に面影が残っている。それで私はすぐに、彼とわかった。
当時のようにはしゃげるはずもなく、軽く会釈を交わした。そして失った時間を埋めるように、この禅寺の周囲の町並みや幼い頃の想い出などを語り尽くした。
「……ところで」と、彼は切り出した。
「母は元気ですか?」
と彼は言う。
私に自分の母のことを訊くというのは、どういうことなのか。私は狼狽した。言葉を失うというのは、こういうことなのかもしれない。
あろうことか、彼はあなたを「母」と呼んだのだ。従兄弟じゃないのか。一体、彼は誰なのか。
「……知らなかった?ごめん、悪かったよ」。
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