7人が本棚に入れています
本棚に追加
/251ページ
振り返るとそこには、変な少年が立っている。
透き通るような銀色の髪に、肩の部分がとがった真っ黒いコート。
金に近いきれいな瞳で無遠慮にかつ無感動にこっちを見つめると、彼は言った。
「あ、邪魔した? 気にせずどうぞ。死ぬんでしょ?」
どうでもいいことのようにそう言われた瞬間。
小爆発が、口から漏れた。
悔しくて、腹が立って、頭痛いくらいで。
そのまま、あたしは泣き出した。
その様子を黙ってしばらく見たあと、少年は言った。
「べつに、いいけどさ」
あいかわらずどうでもよさげな声で。
「もし、その一歩を踏み出さなかった場合、一年後の未来では、あんた、人生が楽しすぎて、あのとき死ななくてほんとよかった。もうぜったい死にたくないって、思ってるんだけど」
その言葉にとうとう、いらいらが頂点に達した。
「うそだ。……かってなこと言わないでよ!」
一瞬、マンションの人たちが何事かと見にきやしないかと肝が冷える。
それほど大きな声が出て、自分でもぶっちゃけ驚いた。
でも、少年は微動だにしない。
その金の瞳を一ミリも動かすことなく。
「それでも飛び降りるならとめないよ。どうぞお好きに」
カツカツと黒光りするブーツを響かせて、屋上から去って行く。
間際。
「でも」
少年が、振り向いた。
「人生の甘い部分って、なぜか苦い体験のあとにひょいっと出てくることが多くて。これがわからないうちに自殺なんかしちゃうやつってけっこう多くてさ」
「……なんで、あんたにそんなことわかんのよ」
最初のコメントを投稿しよう!