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Act5.アイドルは恋愛小説にハマっています
前方にはどでかいスピーカーのついた大舞台。
ダイヤモンドとルビーをちりばめたような文字で幕いっぱいに「Éclair」《エクレール》と書かれている。
金曜日の夕方。
地元の駅から三十分かけて東京の都心に出て、あたしはスターリーホールというライブ会場にいる。
受付でもらったエクレールのニューシングルの宣伝の広告を手に、チケットの半券のアルファベットと数字と座席のナンバーを照らし合わせて自分たちの席を探す。ええっと、Fの2と3ってどこ――。
「なにここーっ! めっちゃ舞台に近いじゃん!」
さすが夏陽は、もう見つけたみたいだ。
そこは舞台のわきに備え付けられた二階席だった。
やれやれと腰を降ろしてみて改めて舞台との距離の近さに驚く。
「ぜったい藤波くんの顔見えるじゃん! 目あったらどうしよう~」
夏陽の弾んだ声での心配も、あながち杞憂と言いがたいほどの近さだ。
ぐるりと会場を見渡してみる。三千の観客席があるというスターリーホールには、 たくさんの若い男女や、年輩の人々でひしめいている。
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