Act5.アイドルは恋愛小説にハマっています

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「今日はオレらがここにいる全員残らず幸せにしてやるよ」  彼の台詞が終わった直後、音楽は歌のパートに入り、リーダーの美谷島くんが歌いだす。  ポップで弾んで、落ち込んでいる人に元気をぽんと差し出すようなメロディ。  その瞬間から、あたしはなにもかも――彼らのパーソナルデータを反芻することすら、忘れた。 「どうもありがとう~!」  客席に通路にあちこちに散っていたメンバーが、舞台に再び集合する。  明るく元気なオープニングから、ハイテンションなラップの混じった曲が何曲も続き、しっとりしたバラードを挟んだあとのことだ。 「『ラブ・イン・ワンダーランド』を聴いていただきました!」  集まったメンバーの真ん中で手をあげて挨拶する美谷島くんに、たくさんの拍手が集まる。 「ところでリーダー。さっきから気になっているんだけど」  そう言って、藤波くんが舞台中心の上方を指さす。  そこには華やかなスパンコールで『クイズ』と書かれた大きなボードがある。 「お。気づいちゃいましたか? あのド派手な看板があるということは」  おどけた目くばせのあと、美谷島くんは絶叫した。
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