Act5.アイドルは恋愛小説にハマっています

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「お任せください。同期で事務所に入った僕は、彼のことは知り尽くしております」  ふられた藤波くんがおどけた丁寧語で応える。 「ずばり、九十パーセントカカオチョコレート!」  うげっと、成瀬君が顔をしかめた。 「あのにがーいやつ? なんで純って、極端な味が好きなの。めちゃめちゃ辛いのとか苦いのとかさ。舌が死んでるのかと思うよな」 「あえて言えば刺激だな」  しれっと答える純に美谷島くんが問いかける。 「さて、正真のこの答えは正解なのか……!」  純が意地悪く笑った。 「残念。それは三カ月前までのマイブームだ。正解は――」  ふっと、彼が目を細めて笑った。  このうえなくつやっぽい演出をきかせて、囁くように言う。 「恋愛小説」  ――。  舞台の上の彼と、目があった気がした。  しばらくあたしは射抜かれたようにぼーっとしている。  気がつけば客席からきゃーという歓声が響いて、メンバーのみんなはお腹をかかえて笑っている。  ひときわ無邪気に笑っていたのは最年少の愛内くん。 「純乙女! 読みながらキュンキュンしちゃうんだ?」  胸の前でハートマークをつくる愛内くんに、
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