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Act6.セクシーダンスにテンパります
東京の都心から少し外れた場所にある貝ヶ浜駅の広間は、周りにショッピングモールやファッションビルが建ち並んでるだけあって、おしゃれをした人たちが行きかっている。その中には当然、カップルの姿もある。――あたしもこれからその中の一組になるのか。
ライブを見た翌週の土曜日。街灯の前で眉間に皺が寄ったのは、文庫本を睨んでいるからだけじゃない。
街中の目立たない小路で、今あたしはカレシ(仮。しかも期限付き)と待ち合わせ中だ。
うん、括弧つきでこう書くと、まるでお金を払ってレンタルカレシでも買ったみたいじゃないか。
いくらなんでもそんなことしないよと言いたいところだけれど、この気まずさと気づまりと罪悪感が入り混じったざわざわ感は、それに近いものがあるかもしれない。
目の前に広げた本の内容が、いっこうに入ってこない。
実際、落ち着かないんだよね。さっきから数日前、舞台で見たあの華やかな顔立ちと笑顔がちらついて――。
うぎゃーっ。
もういい、読むのあきらめた。本を放り出した視界に、つい先日見知った顔が飛びこんできて、
「うぎゃーっ」
リアルに声を発してしまった。
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