1F原発復旧3号機カバー酔夢譚

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 その亡骸は正門から搬出され富岡町体育館に一旦安置された。瓢タンは幼馴染でもあり津波後に真一が帰ってこないことを知った。遺体安置まで付き添った瓢タンの目の前の遺体は前進紫色のうっ血で、痣だらけであり、もし自分が彼の代わりに保守点検を行っていたらどうなっていたか、と、たらればの答えのない問答が頭の中を駆け巡った。  遺体が原発最寄りの体育館で安置されたことを母親に連絡をして、それを受けて一目散で駆け付けた母親を入り口で迎えた。すると母親は瓢タンに会うなり、すがりつくようにしてこう言った。 「息子は生きてるよ。生きているんですよ、さっき電話があったんですよ」  母親のあまりのとっさの言葉にたいして、瓢タンは答える言葉がみつからなかった。安置室に一歩入れば紫色の遺体を目の前にすることになり、現実を理解するだろう、そう思って黙っていると、母親はさらに続けた。 「さっき妹と電話してたんですよ、そしたらガーガと聞こえたんですよ。」 「ガーガ?ってそれは電話のノイズですか?」瓢タンは聞き返した。
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