1F原発復旧3号機カバー酔夢譚

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「違いますよ、あの子は幼いころからずっと私をガーガと呼んでいたんですよ。いまでも。それがさっき電話の中で聞こえたので、いまガーガって真一の声がしたよねと妹にいったら妹もそうだねと言ったんですよ。だから電話の声はノイズではないんですよ、真一は生きているんですよ。」  真一の魂が電波となって電話に現れたのか?瓢タンはそう思って気が動転したが、しかし次の瞬間母親は目の前の遺体安置室の中の現実に出合うだろうと自分に言い聞かせるのだった。  しかし母親が聞いたと言うガーガの呼び声と、部屋に入れば紫の遺体があるというこの酷い現実の状況を素直には受け取ることはできず、もし~だったらの、答えようのない不条理にうろたえ、免震棟からタービン建屋に向かうとき見た彼の最後の微笑みをフラッシュバックさせながら、瓢タンはそれ以上真一の母親を直視することはできなかった。  その後60日くらい経って瓢タンが母親を尋ねると、彼女は四国巡礼の旅支度をしているところだった。「ガーガ!」の呼び声のあとに何が続くのだったろうか?その疑問の答えを探すために。 【1】武道の猛者に泣き出す女子事務員
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