1F原発復旧3号機カバー酔夢譚

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 ただでさえ原発入門は手続きが厳しいのに、一気に増えた人数を大量処理するシステムはなかった。しかし現場の猛者たちは事務所で二週間も待たされるなんてのはいままでの一般の現場では経験がない。 「なんでそんなんに時間がかかるんじゃあ!われわれはいつまで事務所待機すればいいんじゃあ!」  佐木っつぁんはいかめしい赤レンガのような顔つきで言った。  すると対応の女性事務員は泣きだしてしまった。  女を泣かせてもどうにもならない。ますます手続きが遅れることを佐木っつぁんは理解した。  原発で作業する手続きの面倒なことが強面の猛者たちも肌でだんだんわかってきた。できないものはできないと。 「そっかあ、彼女たちはするべきことはやってるんだなあ。問題は手続きが煩雑なんだな。そこが一般の現場と違うところか。事務所で待機しているしかないんだな」  佐木っつぁんは腕組みしながらそうつぶやいて事務所の待機を覚悟した。  当初の作業者証には写真がついていなかった。ある外人記者が偽造作業者証で入門したことがあった。正門の警備で見つかった。それからは写真つきになってますます手続きに時間がかかるようになった。
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