寒中水泳

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「おじいさんが寒中水泳していたよ」僕は母親に言った。 「テレビを見ていたの?」 「テレビで見た」 「それはいい」 「おじいさんはどうして寒中水泳するの?」 「どうしてかね」 「お母さんにもわからないの?」 「さあ、わからないな」 「お父さんはどうだったの?」 「お父さんはしなかった」 「そういえば栄吉はしたの?」 「違法だ、学校の体育でオレと中山だけ寒中水泳させられた」 「それは大変だ」 「テストの点が悪かったからだって」 「だからってそんなことさせられたら死んじゃうわよ」 「でもおじいさんは」 「あれは変態」  それならお父さんはどうなるのだろう? 「お父さんから携帯電話にLINEが送られてくるの、午後三時に必ず」 「お父さんは仕事の日も三時に休憩時間はあるの」 「大工だっけ?」 「えらい大工さん」 「えらいのか」 「それでなきゃ、栄吉の学費払えないよ」 「それもそうだ、授業中も携帯電話を取り上げられないからな、オレの学校は」 「ずいぶんといい学校だね」 「ひどいよ」 「自分で受験するのを決めたのでしょう?」  母親はそういう言い方はない、という典型みたいな言い方をした。 「いい学生生活だけど」 「変態な先生は相手にしないで、がんばれ」 「わかった」
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