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「そう。じゃあ、もう分かっちゃったかな?」
サワメが、泣きそうな顔で微笑んだ。
「私の、こと」
「ちょっと待って、どういうことだよ?」
俺は思わず聞き返した。何がなんだか、分からない。サワメが今日遅れてきたこと、俺がミニチュア井戸を見つけたこと、鳥居の額縁を見つけたこと――それで、サワメのことが分かる?
俺が戸惑っていると、サワメはまた笑った。
「太地くん、やっぱり古典苦手でしょ」
脳裏を掠める古典のナカセンの顔。
「……苦手、だけど」
「じゃあきっと、古事記とか日本書紀とかも触れたこと無いよね」
「お恥ずかしながら」
「……もう、バカ」
サワメはそう言いながらも、まだ笑っていた。
「じゃあ、おバカな太地くんに――ちゃんと、言わなきゃいけないこと言うね」
「サワメにおバカとか言われるとムカつくな」
「ちょっと! 私が今から話そうとしてるんだから、口挟まないで! ……あのね」
サワメは、言葉を選びながら。
「私、今日でお別れなんだ」
――え?
「私の夏休みはもう今日で終わりなの。だから、太地くんにお別れを言いに来た」
「……え?」
やっとのことで、声を絞り出す。今サワメは、何を言っているのだろう。今日でお別れ? だってそんなこと、サワメは今までに一度も――。
「急にこんなこと言って、ごめんね。でも、そう決まってるから。だからもう一緒には居られないんだ、太地くんとは」
「……どういうこと、だよ」
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