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急展開に、頭が追いつかない。心も追いつけない。サワメの言っていることがうまく呑み込めなかった。
「あのね、太地くんには私の本当の名前、教えてあげる」
サワメは人差し指をかざして、虚空に文字を書いた。
「『泣』『沢』『女』だよ。私、泣沢女って言うんだ」
「ナキサワメ……?」
「うん。たまに泣沢女神って呼ばれるよ」
「……え? カミ……って」
聞き返しながら、俺は例の石板の文字に目をやった。――泣沢女社。なきさわめのやしろ。
「じゃあ、サワメ……これは」
震える手で、その文字を指し示す。
「これはどういうことなんだよ……サワメのお社って……」
言葉が、続かない。涙も出てこない。ただ、俺は震えていた。震えが止まらなかった。
なんで。
サワメが「ナキサワメ」なのなら。
この文字列を、そのままの意味で取って読む。
サワメのお社。
つまりサワメは、
「か、み、さ、ま――――?」
たどたどしく、その言葉を口にした俺に、サワメは泣き笑いの顔で頷いた。
「ずっと黙っていてごめん。
太地くん、私、人間じゃないの。
……神様、なんだ」
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