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「赤が綺麗だよね。社殿は古めかしい感じなのに、鳥居だけずっと綺麗だったのかな?誰か塗ったとか?」
あの日、俺の問いに対してサワメは。
「私が最初に見たときから、ずっとだよ。確かにほかの建物とは何か切り離されている感じするよね、時代とかが」
――そりゃ、そうだよな。サワメが塗ったばかりだったんだから。俺に「泣沢女神」という正体を知られたくなくて、彼女は懸命に隠そうとした。その最たるものが鳥居にかけた努力だったのだ。
俺がその事実に気づいて暫く動けないでいると、サワメが目の前で思い切り頭を下げた。さらりと彼女の髪が揺れる。
「太地くん……、ごめん」
泣きながら、彼女は。
「ずっと嘘ついててごめん。騙しててごめん。私……人間じゃないだなんて知られたら、太地くんに嫌われると思って、ずっとこのままでいたくて……でもそんなわけにはいかなくて、わた、し、もう、かえらなきゃ」
「サワメ……」
言葉が出てこなかった。解けた疑問、それと同時に押し寄せる、名前をつけられないようなこの気持ち。
俺は。
ずっと、この日々が続くと思っていた。
でも今更、気づく。サワメが俺に「ください」といったのは、「夏休み」だけだ。俺たちが別れる日はいつか来なければいけなかったし、それが早まっただけだ。
――そう、思えればよかったのに。
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