15.お別れのとき。

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 人間である俺にはわからない、大神さまという存在。今サワメが「私たち」という言葉で指したのは、俺とサワメっていう意味じゃなくて、人間とは違う「神様たち」のこと。 「それでね、この期間だけは自由だって言われたから――太地くんに、声をかけた」 「俺を選んで声をかけたってこと? なんで」 「古典が苦手って言ってたから」 「は!?」  俺の脳裏に、夏休み前の授業――「係り結び」を「枕詞」と間違えて哀翔たちに笑われた日が蘇る。確かその日の放課後だった筈だ、俺とサワメが出会ったのは。 「古典が苦手なら、古事記とか日本書紀とか、他のいわゆる『神話』が記されているものを知らないかなって、思って」  サワメという名を聞いて、「泣沢女神」だとバレてしまうのが怖かった。そうサワメは言った。  確かに俺は、気づかなかった。  彼女が名字を名乗らなかったのも、なにか事情があるのかな、なんて考えていた。まあ……神様だから名字なんてなかったっていう事情があったわけだけれど。 「だから、ひとりの人間として、太地くんと関わって、いっぱい話して、たくさん色んなところに行けて。私ね……凄く楽しかったんだ」  本当に、ありがとう。  そう言って無理やり笑顔を作る彼女の眼尻から、一筋の涙がこぼれ落ちる。 「あの日、勝手に太地くんに着いていってさ、ストーカーまがいのことをしていた私に、『俺に何かできることがあれば』って、声をかけてくれて、ありがとう」  あの夏の夕方、目の前で見知らぬ美少女に泣かれた俺が、困った末に打ち出した解決策。それに対するサワメの答えが、「夏休みをください」だった。 「アイスおごってくれて、ありがとう。人間の子たちがよく食べてる、スイカバーを食べるの初めてだったから……嬉しかった」  コンビニ前のベンチに座りながら、美味しそうにアイスを食べる彼女の姿が瞼の裏に蘇る。
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