15.お別れのとき。

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 泣沢女神――。もしそれが本当の名前であったとしても、俺は絶対にそうは呼ばない。  俺の目の前に立っている彼女は間違いなくサワメであり、俺が「サワメ」であってほしいと願う存在だから。 「消えないでくれ! 行かないでくれ! 本当に……俺を置いて行かないで……」  生あたたかい雫が、頬を伝ったのが分かる。久しぶりに泣いたな、なんて。どこか客観的に考えながら、俺は想いをただ叫ぶ。 「好きなんだよ! いつも俺の隣で楽しそうに笑ってくれているサワメが、好きなんだ! 夏休みだけじゃなくて、俺の人生全部あげるから!」  だから頼む、まだ、俺と。 「一緒に居てくれ……」 「たい、ち、くん」  サワメがしゃくりあげながら、こっちを見た。彼女の潤んだ瞳の奥に、やわらかな光がふわりと宿る。 「ありが、とう。そう言ってくれて、ありがとう。好きになってくれて……ありがとう」  私も、太地くんのことが。  ――そう言いかけて、やめる。  サワメと太地くんの間には、決して越えてはいけない線が引かれているから。 「でも、太地くんの人生全部は、もらえないよ」    サワメがはっきりと言う。 「太地くんは、太地くんの人生を生きなきゃ。私のものじゃない、それは太地くんがこれから選ぶべき未来であって、太地くんだけの道だから」  ――最後まで、ワガママでごめん、太地くん。 「ごめんね、一緒に居られなくて」 「だから」  俺は言う。
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