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泣沢女神――。もしそれが本当の名前であったとしても、俺は絶対にそうは呼ばない。
俺の目の前に立っている彼女は間違いなくサワメであり、俺が「サワメ」であってほしいと願う存在だから。
「消えないでくれ! 行かないでくれ! 本当に……俺を置いて行かないで……」
生あたたかい雫が、頬を伝ったのが分かる。久しぶりに泣いたな、なんて。どこか客観的に考えながら、俺は想いをただ叫ぶ。
「好きなんだよ! いつも俺の隣で楽しそうに笑ってくれているサワメが、好きなんだ! 夏休みだけじゃなくて、俺の人生全部あげるから!」
だから頼む、まだ、俺と。
「一緒に居てくれ……」
「たい、ち、くん」
サワメがしゃくりあげながら、こっちを見た。彼女の潤んだ瞳の奥に、やわらかな光がふわりと宿る。
「ありが、とう。そう言ってくれて、ありがとう。好きになってくれて……ありがとう」
私も、太地くんのことが。
――そう言いかけて、やめる。
サワメと太地くんの間には、決して越えてはいけない線が引かれているから。
「でも、太地くんの人生全部は、もらえないよ」
サワメがはっきりと言う。
「太地くんは、太地くんの人生を生きなきゃ。私のものじゃない、それは太地くんがこれから選ぶべき未来であって、太地くんだけの道だから」
――最後まで、ワガママでごめん、太地くん。
「ごめんね、一緒に居られなくて」
「だから」
俺は言う。
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