愚の穴

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「お兄さん、浮かない顔してるね」  双子の少年少女が俺に言う。  気難しいと有名な取引先の社長とようやく会食するチャンスを得られたというのに、同席した同期の佐々木にあっさりとだし抜かれ、契約は佐々木の一人勝ちという結果で終わった。その負け犬ヅラが顔に表れていたのだろう。 「そんなお疲れのお兄さん」 「よかったらこれどうぞ」  息がピッタリ合った双子に手渡されたのは俺のパンツスーツの切れ端……のような、手のひらサイズのポケットだった。 「なにこれ」 「ポケットです」 「ポケット?」  端切のような薄っぺらい布をまじまじと見る。 「そのズボンにぺたりと貼ってください」 「いざとなった時に、きっとあなたを助けてくれますよ」 「はあ……」  言われた通りにポケットをズボンに貼る。目立つどころか、かなり馴染んでいた。 「でもでも」 「決して誤った使い方だけはしないように」  双子はそう言い残して不気味に笑うと、夜の町に消えて行った。 「……なんじゃあれ」  子どもの遊びにまで付き合わされるとは、今日はとことんツイてない。  ため息をつき、重たい足取りで帰路についた。  
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