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佐々木が自己退職して、三ヶ月が経った。
佐々木の失脚により、ずれたスポットライトは思惑通り俺に当たった。今では俺が営業トップだ。大きな仕事も担い、いそがしくも充実した日々を送っている。
モチベーションが下がった時は、いつも佐々木の顔を思い出す。ああ、あの時の佐々木の顔といったら……
鼻歌をうたいながら帰路につく。
そういえば今月で美咲と付き合って一年だ。そろそろ指輪でも渡してやろうかとポケットの中に手を入れようとした時、背後から「すみません」と声を掛けられた。
振り返ると、そこには二人の警察官がいた。
「はい?」
「お仕事帰りにすみません。一時間ほど前にこの周辺で殺傷事件がありまして、少しだけお話伺ってもいいですか?」
「え。そうなんですか。まあ、少しだけなら」
犯人の身なりがスーツを着たサラリーマン風の男だったらしく、警官は職務質問を行っているようだった。
「身分証ありがとうございます。では、衣服の中中を拝見しますね」
「どうぞ」
両手を上げると、「失礼します」と警官がボディチェックを始める。早くおわんねぇかなあ、と欠伸をした瞬間、ポケットからすべり落ちた何かが地面に落下した。
がらん、と鈍い音が響く。
「え?」
そこに落ちていたのは血塗れのナイフだった。
「……はああっ!?」
驚いてナイフから後ずさると、警官は俺の腕を強く掴んだ。
「どういうことですか」
「こっちが聞きたいよ! 俺なんにも……!」
「詳しくは署でお聞きしましょうか」
「いっ、意味分かんねぇ! 離せって! おい!」
貼り付けたポケットが剥がれ、水たまりの中に落ちる。そして吸い込まれるようにゆっくりと消えていった。
「なんで……なんでこうなるんだよおおお!」
夜の街に響き渡る男の声を、双子の少年少女は楽しそうに聞いていた。
「だから誤った使い方するなって言ったのに」
「愚かな人間の哀れな末路だったね」
「あっ、見て」
少年が指差した先にはリクルートスーツ姿の女。前方からふらふらと歩いてくるのを見て、双子は顔を見合わせてニヤリと笑った。
「お姉さん、浮かない顔してるね」
完
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