文化祭

17/18
43人が本棚に入れています
本棚に追加
/139ページ
「ちとせは俺にとって最初で最後の好きな子だよ」 「それって結構、重い言葉だよ」 ちとせはここに来て初めて表情を変え、ほんの少し声を張り上げ八尋に食らいついた。 縋るような、求めるような視線に、八尋は心の底から安心する。 なんだ、こんな簡単でわかりきっていることを心配していたのか。 じっとこちらを見つめる大きくて丸い瞳。 暗いグラウンドの微かな光を集めて、深くて優しい輝きを灯すその瞳。 見ているだけで安心する、吸い込まれるようなちとせの両の眼には、いつだって不安と渇望が入り交じっているのだろう。 「大丈夫。誓うから、心に刻んどいて」 八尋はちとせが可愛くて愛おしくて堪らなくて、緩んだ表情でちとせの頭をぐしゃぐしゃと撫でた。 ちとせは張り詰めていた緊張の糸が切れたように無邪気に笑い、また新しい花火を手に取った。 「言質とったから!」 そう言って立ち上がり、火花を散らすカラフルな棒を振り回しキラキラとした笑顔を浮かべた。 八尋はスマホを手に取りカメラを起動しその姿を写真に収める。 重いカメラを抱えたちとせの気持ちが少しわかった気がする。愛おしくて、残しておきたいのだ。今だけではもったいない。この先何年も、見ていたい。 「ねぇ、八尋のさっきの質問さ」 そうだった、八尋は忘れかけていた質問を思い返す。署名活動に勤しんだ理由と、柚希と親しげな理由が知りたかったのだ。 「今日はというか明日からも、八尋の友達とは仲良くしようと思ってさ」 「それはなんの心境の変化なの」 「建前としては、もう八尋が俺のとこ走ってこなくていいように、俺がそっちに歩いて行こうっていう、そういう話」 遠回しな表現を聞きながら、八尋はスマホをポケットにしまって花火を手に取る。ちとせの振り回す火をもらい、八尋の魔法の杖もパチパチと音を立てた。 「で、本音としましては?」 「傍にくっついておけば、八尋のこと取られなくて済むだろ」 またもや無邪気に言うその笑顔に心臓を射抜かれ、思わず自分の胸元をぐしゃりと掴み俯く。
/139ページ

最初のコメントを投稿しよう!