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「ねぇ八尋、お化け屋敷入んない?今年めっちゃ怖いらしいよ」
いいよ、など一言も言っていないのにちとせは長蛇の列にひょいと加わる。
「なんでおまえ怖がりなのに毎回行きたがるの?」
「なんでだろね」
能天気な返答。
それから列はぐんぐんと進んでいき、その度に中から大きな悲鳴が聞こえる。
二人はなんでもない会話を楽しみ、レモネードもココアもなくなった頃、遂に自分達の番が回ってきた。
なくなった身体のパーツを集めて欲しい、と受付で頼まれた二人は、スマホのライトで暗い教室を照らし歩く。
設定が事故現場であるためか、足元は悪くそこらじゅう血まみれだ。
ちとせは八尋が気が付かないような小さな仕掛け全てに反応し、女子顔負けの高い声で叫ぶ。八尋の右耳はキーンと痛み、また別の恐怖を味わっていた。
「なんか広くね?」
まだ終わらないのか、と内心思い口にする。
「教室三つ分使ってるんだって」
そう答えたちとせは横からお化けに驚かされて、八尋の腕にギュッとしがみついた。
「ごめんまじで怖すぎ、甘えさせて」
薄暗い中、ちとせの髪の匂いがふんわりと漂い、時が止まったように感じた。
前言撤回。
こんなに嬉しいことが起こるなら、日本中のお化け屋敷を回ったって良い。
八尋はそんな浮かれた思いのまま、出口をくぐるその瞬間までお化け屋敷を楽しんだ。
「あー怖かった」
「俺はなんか、夢みたいだった」
気の抜けた八尋は思ったことをそのまま口にしてしまい、はっと口元を手で覆った。
「なに言ってんの」
ちとせも顔を染め、なんともくすぐったい空気が流れていく。
「あのさ、恥ずかしいついでに聞きたいんだけど」
人気の少ない廊下をゆっくりと歩きながら、八尋は心臓をバクバクと鳴らしながら尋ねる。
「いつから気が付いてた?俺がちとせのこと、好きって」
「二人で保健室行ったとき。もしかしてって思って。あと、ちゅーされて確信に変わったかな。冗談じゃしないようなことばっかりだったし、八尋ガチで焦ってたし」
余裕そうに、嬉しそうに話すちとせ。
八尋は数々の失態を思い返し逃げ出したい気分になった。
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