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その場の空気に耐えられず言うとちとせが大きな素振りでこちらを振り返る。口には出さないが驚いた表情。そりゃあそうか。
「今年も2人で参加しよう、そうしたら丸く収まる」
ちとせに耳打ちするが嫌だ嫌だと首を振っている。
「あ、あの!私やります!」
八尋がやると告げたその少し後、女子グループが目配せで合図をしあっていた。その中から恐る恐る手を挙げたのは清楚な雰囲気の大人しそうな子。
周囲から拍手があがる。
「ちょっとまって」と焦るちとせの声は掻き消されそのままホームルームは終わった。
「なんで急にやる気になったわけ?」
「空気……と、あと悠太もやるって言うし参加してもいいかなって」
少し不機嫌そうなちとせは八尋の流暢に動く口元を見て顔をしかめる。
「一緒にクラスの仕事やれると思ったのに」
あからさまに大きな溜め息を吐き出すちとせ。不貞腐れたような姿がどうしてか愛おしかった。
「あ、あの……野沢くん」
後ろの方から声がし振り返る。
「佐藤さん」
一緒に演劇へと参加する佐藤柚希が友人二人とともにこちらを見ていた。
「行ってくるね」と告げるがちとせはこちらに興味がない様子でスマホの画面を凝視したまま適当な相槌を打っている。
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