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「ちとせは嫌じゃなかったってこと?」
「あー、うん。驚いたけどね」
「まって、じゃあいつから翔先輩じゃなくて、俺のこと……」
「んー、八尋に好きな人いるって聞いた時かな。嫌すぎて失恋しろって思ってたもん」
そんなに前から、と八尋は驚くと同時に、あれだけ色々なことで悩んだこの約一ヶ月に意味がなかったように思えて少し落ち込む。
「もう良い?恥ずかしくなってきた」
歯痒い内容の質面責めにギブアップの声をあげ、ちとせはふらりと園芸部の部室へと入っていく。
「わあ、すげー綺麗」
園芸部が育てた花を見て、ちとせは微笑んだ。
「良かったら、販売も行っているので」
一人で当番をしている生徒が控えめに言った。
ちとせは楽しそうに教室の中を見て周り、バケツの中を覗き込む。
「これ、球根も売ってるんですか?」
「それは無料でお配りしています。こっちの咲いてるお花が販売用です」
その答えを聞いてちとせは考え込むように動きを止めた。
「欲しいの?」
「いや、美紗さんに買っていこうかなって。文化祭、来られなくなったし」
その言葉が少し意外だった。
美紗さんとちとせは決して良い関係ではなかったが、この前のことで少し変化があったのだろうか。
「このピンクのお花と、チューリップの球根ください」
ちとせは渡されたビニール袋の中の花と球根を大切そうに眺めて、教室を出た。
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