プリムラ

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┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 文化祭一日目。色々なことがあったけれど、なんとか無事に終了し、生徒達は帰路につく時間となった。 校門の外へと吸い込まれる人々を横目に、ちとせは外のベンチに腰掛けスマホの画面を見て、父さんからのメッセージになんと返そうか悩んでいた。 父さんとは、母さんと美紗さんのことを言われたあの日以来、あまり良くない関係が続いていた。 そんな中で美紗さんの入院騒ぎがあったので、お互い様子を伺い合って話をしている。 自分が大人になれば済む話だとわかっているのに。どうにもそれができない。 ちとせはベンチの横に置いたプリムラの花を眺め、息を吐く。 『美紗さんのところ寄って帰る』 そう返信し、スマホを閉じた。 いつも美紗さんに冷たい態度を取ってしまうが、美紗さんは何も悪くないとどこかでわかっていた。 父さんがあっさり再婚したとか、若くて綺麗だとか、そんなことが気に入らなかった自分を少しだけ恥じるようになってきていて。 あの人が倒れてもちとせを呼ぶことができなかったのは、信用されていなかったからだ。 誰が悪いとか悪くないとかは隅に置いて、失いたくないのならもう少しコミュニケーションを取らなくてはいけない。 言葉にしなければ、人の心のうちなどなにもわからないのだから。 どうか、今度はちとせを頼ってくれるように。 そう思えた点は少し成長したと言えるだろうか。 「ちとせ、おまたせ」 まばらになった人通りの中から八尋の声がする。 ちとせは微笑み立ち上がり、二人並んで帰り道を歩いて行く。
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