よくあること

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ちとせに構いたい気持ちは隅に置いて女子グループに声をかけた。何気無い挨拶や去年の様子を軽く聞かれ、八尋は丁寧に答えた。ほとんど話をしたことがない相手だったが柚希がよく笑う子だったため、場は和やかだった。 「ごめん話長くなっちゃった。新島くん帰っちゃったね」 柚希にそう言われてちとせの席を振り返るとカバンごとその姿はなくなっていた。 「平気、よくあること」 笑ってみせる。本当によくあることなのだ。ちとせは気まぐれで自由奔放、執着しないその姿も好きだった。少し切なく歪んだ音を立てる心音は聞こえないふりをして強がる。 「また演劇の集まりで話そうね」と柚希が微笑み八尋は教室で一人となった。 一人で帰るのは久しぶりだ。スクールバッグを背負う形で持ち教室を後にし、随分と放置してしまった友人、悠太に返信をする。 『バスケ楽しみ』 まだ日の落ちきっていない帰り道。 夏の陽射しが肌に刺さり、八尋はワイシャツの袖を折って第2ボタンも外した。蝉の声が精神的暑さを際立てる。 スマホがポケットの中で震える。 悠太の使うよくわからない猫のキャラクターが画面に表示され、口元が少し綻んだ。
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