文化祭

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その少し後、妙な違和感は今もまだ目の前にあった。 八尋はただ椅子に座り、柚希の指示通りに目を閉じたり開けたり上を見たり、そんなことしかできないというのに。 軽い舞台メイクを施される間、柚希とちとせはなにやら楽しそうに話をしている。 八尋の知らない漫画の話だ。 知らない言葉が飛び交う間、八尋はただただ考えていた。 ちとせって、こんなに女子と話せたっけ? この二人がこんなにも自然に会話を続けられるなんて想像もしていなくて。挙句の果てには自分が蚊帳の外に出されるなど、夢にも思っていなかったから。 八尋は終始落ち着かず、居心地が悪かった。 「あ、俺そろそろ行かなきゃ」 楽しげな会話の隙間で、ちとせは思い出したかのように言って立ち上がった。 「どこ行くの?」 「体育館。早めに座っとかないと良い席埋まっちゃうから」 八尋は納得し、名残惜しくも「そっか」と頷く。 「いいなあ、私も本当は観客席で見たいんだ」 柚希が呟く。 彼女は舞台に上がることも、音響や照明を担当するわけでもないので本当は観客席に座っても良いのだ。 八尋が一人で準備をできていれば、彼女はオペラグラスでも携えて一番よく見える席を確保していただろう。 「準備手伝ってもらっちゃってごめんな」 そう言えば、柚希は「これも楽しいから」と微笑む。ちとせは立ち上がったまま二人のやり取りを見ていた。 そして少し考える素振りをしてから、柚希の顔を見る。 「俺の横でよければ、席取っておこうか?」 「え、新島くんは私の隣でいいの?」 柚希は本日三度目の動揺を見せて、セットしていた八尋の髪を強く引っ張った。痛みに声が出るが、柚希とちとせには聞こえていないらしく、二人は会話を続ける。 「知らない女子の横よりマシだから」
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