文化祭

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「嬉しい……!今度新島くんの好きな購買のブラウニー買ってくるね!」 ちとせはその言葉にふわりと微笑むと、「じゃあ八尋、頑張ってね」と軽い言葉を残して教室を後にした。 「えーーー、ねえ見た?今日すごい優しい、野沢くんに告白されたのがよっぽどうれしかったんだね。はあ幸せ……」 柚希は興奮気味に早口で言葉を発し、八尋の髪を掴んだままぴょんぴょんと飛び跳ねた。柚希が首から下げているスマホのストラップ部分がカチャカチャと音を立てている。 「痛い痛い痛い」 その手を制止し、八尋は小さな手鏡を覗き込み自分で髪を整える。 「ていうかバレバレだったね、私達がこそこそしてたの」 「ちとせは人のことがよく見えるから」 「うん、野沢くんと大違いだよね」 「喧嘩売ってんの?」 八尋はメイクを施された迫力のある顔で柚希を睨みつける。柚希はちとせと会話ができたことがよっぽど嬉しかったのか、八尋の視線などお構い無しに鼻歌を歌いながらポーチに道具をしまった。 「……ちとせと話せて嬉しかった?」 「え、うん。当然だよ。え、見たでしょ?さっき私に微笑みかけてくれたんだよ」 「いやー、そうすね。ばっちり見てましたけど。なんか腑に落ちないんだよなぁ」 別に良いのだ、ちとせと柚希が仲良くなるのは。これで八尋の好きな者たちがみんなで仲良くできるのならば、これ以上に嬉しいことはない。 だけど、 「付き合い始めてすぐは俺が優先されるべきじゃね?」 「ヤキモチだ、かわい〜!」 柚希は八尋の気持ちに寄り添うことなく可笑しそうに笑う。腹立たしいその表情に軽いデコピンをくらわせ、八尋は窓の外を見つめた。 舞台に上がるこの後だけは、八尋だけを真っ直ぐ見ていてくれますように。 柄にもなくそんなことを思いながら。
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