文化祭

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「それじゃあ」 そう言って立ち去ろうとすると、玲奈はやっと口を開いた。 「……ただの罪滅ぼしのつもりだったんですけど」 罪滅ぼし? その言葉の意味がわからず、八尋は首を傾げる。 「なに、どゆこと?」 「でも私、お幸せになんて言わないですから」 玲奈は八尋の問いを無視してそう言い残し、走りにくそうな丈の長いワンピースのまま小走りに友人の元へと駆けていった。 それを追って問い質すべきか否か悩んでいると、開演のアナウンスが体育館へと響き渡る。 翔が「悠太はまだか」と聞いて回っている。八尋は舞台袖のカーテンに隠れながら観客席を見渡し、こちらへ向かう悠太の姿がないか探すが見当たらない。 自由人なのは今に始まったわけではないけれど、無責任な奴ではない。すっぽかしたりはしないと思うのだけれど……。 それにしても人が多い。 用意されたパイプ椅子では足りず、立ったまま観劇に臨む人達で溢れている。 その様に圧倒されながらも、観客席の中からちとせを見つけた。右隣には柚希がいて、その反対隣には八尋の父が座っていた。無事に良い席を取れたみたいでよかった。 「みんな聞いて、やっぱり悠太と連絡がつかない。あいつの出番は少し先だから予定通り始める。最悪の場合台本書いた青木が代役として出ることになるから」 翔は冷静に言い放ち、「八尋は色々教えてやって」とこちらを向いた。 青木という一学年上の男は少々冴えない眼鏡をかけ、自信がなさそうに下を向いていた。八尋は傍に寄り、昨日も同様に困らせてしまっていたであろうことを謝罪した後、青木と共に台本を開いた。 「篠山くん、決闘のシーンには間に合うと思う」 「なにか聞いてるんすか?」 「うん、どうせ会長が折れるだろうから」 答えになっていないその言葉に「どういうことすか」と聞き返すも、八尋の最初の出番が迫っており舞台袖のスタンバイ位置へと手招きされる。 今は集中しなければと思い直し、自分の頬をぺちぺちと叩く。ちとせに格好悪いところは見せたくない。今日は誰にも迷惑をかけたくない。 その一心で、心優しきティボルトは舞台に立った。
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