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結果として、舞台は大盛況に終わった。
悠太は自分の出番ギリギリで姿を現し、涼しい顔で台詞を言い放った。その様子がなんだかご機嫌そうで、八尋は少し安心したのだ。
それから、ロミオとジュリエットが結末改変により手を取り合って結ばれた所で舞台の幕が降りる。昨日よりも観客が多い分歓声も多く、なんだか現実味がなく、ぼんやりと夢を見ているような気分だった。
まさか自分が人前で演技をして拍手をもらうなんて、それを楽しかったと思うなんて。
八尋は興奮冷めやらぬまま舞台を降りて、自分を待つであろうちとせの姿を探す。
こちらに気が付いたちとせはほっそりとした両の腕を大きく上げて、手のひらをフリフリと揺らした。柚希と八尋の両親もこちらに気が付き、観客席に座ったまま「おつかれ」だの「良かったよ」だのそれぞれ言っている。
「八尋、一番かっこよかった!」
ちとせだけがこちらへと駆け寄り、煌びやかな衣装を身にまとった八尋の胸へと飛び込む。
ふんわりといつもと同じちとせの匂いを感じ、なんだか安心する。けれど同時に人前で熱烈なハグをもらった事実が小っ恥ずかしくて顔が熱くなった。
それがバレてしまわないように、衣装が熱いフリをしてパタパタと顔を仰ぐ。
ちとせはそんな八尋の表情を見上げ、悪戯に笑っていた。
「そうだ!花火結局やるって!後夜祭一緒に参加しよ!」
どうしてかご機嫌なちとせの言葉。
「え、そうなの。悠太知ってるかな」
八尋は条件反射のように悠太の顔が浮かび、ちとせの身体を離し、自由気ままな奴の姿を探そうとする。
探そうとしただけなのだが。
ちとせはそれを許さず、離れていく八尋の腕を掴みぐいと抱き寄せる。その強引さに抗えぬまま、八尋は振り返りちとせを見た。どうしたと聞けば、ムスッとした表情のまま口を開いた。
「篠山はもう知ってるし、平気だから。八尋はずっと俺といて」
「はあ?なに、言ってんの、」
大きな声が出た。
「観客席じゃ遠すぎた。俺は八尋の横がいい」
「なに、寂しかったの?」
その強引さに呆れ笑って見せると、ちとせは少し驚いた様子で目を見開いた後、眉を寄せ少し照れたように「うん」と頷いた。
それがあまりにも可愛くて可愛くて、八尋は一生この子を離さないと心に誓うのだった。
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