文化祭

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「待って、なにが言いたいの?」 そもそもこれは八尋の問いかけた内容に関係のあることなのだろうか。 話の先が読めず困惑する八尋を見ても、ちとせの顔色は変わらなかった。長く綺麗なまつ毛を伏せて、手に取った線香花火に火をつけそれを眺めている。 さっきは「八尋の横がいい」と可愛いことを言ってくれたというのに、一体どうしてこんなお通夜のような空気にならなくてはいけないのか。 重い沈黙の中、線香花火の火の玉は落ちることなく消えていった。八尋もちとせもただそれを眺めるだけだった。 「俺のことなんか好きにならなきゃ可愛い後輩と付き合う可能性があって、俺はその未来を潰したんだ」 完全に手の中の灯りが消えて、ひんやりとした風が吹いて、ちとせがそう言って。 「いや、え?俺から好きになったんだから関係なくね?」 八尋は焦り、口早に言った。 どうしてこの期に及んで悲しいことばかり言うのだろうと不安ばかりが募る。 「八尋、舞台降りてまで俺のとこ走ってきただろ。俺の罪悪感とかなんも知らないで、無視して、馬鹿みたいに重い衣装で走ってくるんだ」 「俺は、ちとせがいちばん大事だから」 叱られた子供が言い訳をするように、八尋は言った。 「それは嬉しいけど、俺がいなければ八尋はもっと簡単に幸せになれたのにって思ったんだよ」 「それで結局、ちとせはどうしたいの?」 怖かった、昨日のはやっぱりなしだと言われたら、八尋はとても受け入れられないだろう。 二人はもう火のついていない花火を持ったまま、お互いの顔をじっと見つめた。 それから少しして、ちとせが、重たい唇を動かして言葉を発する。 「だからさ、本当に俺なんかでいいの?」 思わぬ言葉に八尋は目を見開いた後、安堵のため息を吐く。
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