43人が本棚に入れています
本棚に追加
次回までに台本の読み込みを行うことを指示されその日の集まりは終わった。カバンを持ち教室を出ようと立ち上がると隣にいた柚希も急いで荷物をまとめ始める。
「野沢くん、良かったら一緒に帰らない?」
「あー」
少し考えてからスマホの通知を確認する。ちとせからのメッセージは来ていなかった。
「うん、帰ろっか」
何も予定がない日はちとせと共に帰ることが多いが、絶対の約束にしている訳でもないためこういう時はちとせがどこで何をしているのかわからない。
もう帰ってしまったのだろうか。それともまだ教室にいるのだろうか。わざわざそれを聞くためメッセージを打ち込むことも八尋にはできなかった。
「そういえば佐藤さんってさ」
どうして演劇に参加したのか聞きそびれていたことを思い出して口を開くと、「そうだ野沢くん、柚希でいいよ、佐藤さん沢山いるでしょ」と微笑まれる。
八尋は素直に名前を言い直し尋ねる。
「柚希はどうして演劇に参加したの?あの時急に手を挙げただろ」
柚希はそれまでの笑顔を保ったまま目を泳がせる。彼女は少しだけ考え込む時間を必要としたあと、恥ずかしそうに口を開いた。
「こんなこと言ったら絶対変だって思われると思うんだけど」
八尋は下駄箱から自分の靴を取りだしながら次の言葉を待った。
「新島くんが困ってるように見えたから」
最初のコメントを投稿しよう!