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「ちとせが?」
ドクンと嫌に心臓が鳴り、持っていた片方の靴が指先から離れ地面に転がる。
照れくさそうに頷く柚希の表情に嫌な予感がした。
「ちとせのこと、好きなの?」
普段あまり発することのない真っ直ぐでデリカシーのない問いが八尋の口から零れる。柚希は目を丸くした。
「好きなんてまさか!おこがましい!」
「おこがましい……?」
ぶんぶんと頭と両腕を振る様子のおかしい柚希の姿を見て、八尋は先程とは違った戸惑いを覚える。
そして押し黙る2人。靴を履き替えて階段を降り、賑やかなグラウンドの横を通り過ぎて校門をくぐった。
じゃあさっきのはなんだっていうんだ、そう聞きたかったが少し冷静さを取り戻した八尋は慎重に言葉を選び、蝉の声と運動部の声が響く空気をさえぎり口を開く。
「あの、さっきのって詳しく聞いていいやつ……?」
柚希は少し歩みを進めたあと決心したように大きく息を吸い、八尋の顔をじっと見た。
「新島くんのファンなの」
「ん?」
思わぬ言葉に八尋はさらに困惑した。
「あのほんと、変だよね、アイドルに憧れるみたいな感覚のファンなの……変だよね」
変というか、なんというか。八尋はなんと答えたら良いのかわからず駅までの歩みを進めながら黙り込んだ。
「こんなこと、新島くんと仲の良い野沢くんに言うことじゃないよね。でもあの時、怪我をして傷付いたままの新島くんが無理やり演劇に参加させられそうな姿見てたら私がやるしかない!って、なんていうか、母性……?が働いた、というか」
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