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「それからファンになって廊下とかで見かけると嬉しくて、美術部の部室からサッカー部もよく見えたから一方的に見つめてばっかりで」
ファンとは言うが、恋する女の子となんら変わらないような気がして八尋は苦笑いを浮かべる。
「サッカー部も辞めちゃったでしょ、だから今年は同じクラスがすごい嬉しくて」
推しに似ているという点以外でちとせのどういうところに惹かれたのか尋ねると、柚希は嬉しそうに言う。
「掴みどころのない所、かな。目を離したらふわ〜っといなくなって別のところで別の人と可愛い笑顔で話してる。寂しがり屋なのかと思ったら1人で図書室にいたり、本も読まずにぼんやり窓の外見てたりするの。自由な野良猫みたいでいつ見ても飽きない」
八尋は痛いほど柚希の気持ちがわかってしまった。柚希が語った姿は容易に想像できるどころか、自分がいつも見つめている姿そのままであった。
そんなちとせが自分に懐いてくれて気を許しわがままを言うのが、堪らなく好きなのだと改めて自覚する。
何を考えているのかわからない横顔がまつ毛の先まで鮮明に思い浮かび、それすらも好きだという感情で支配される。
「俺も好きとかじゃなくて、ファンなのかな」
柚希に同意して見せると、彼女は「そんなわけないよ」と笑った。八尋はどうして断言できるのかと問う。
「私には心ときめくものが沢山あるけど、野沢くんはそうじゃないでしょ」
「どういうこと?」
「唯一無二ってこと!私は新島くんがいなくても他のものでときめき補給するけど、野沢くんは新島くんの代わりとかないくらい大好きっぽいから」
柚希は周りに聞かれないよう目の前に座る八尋の方へと身を乗り出し、声のボリュームを抑えて言った。
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