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この新島ちとせという男は、どこか人と距離を置いている。
中学2年生の時に知り合ってからずっと、八尋の前でしか大きい声で笑わないし、休日も放課後も部活以外では八尋と過ごしてばかりだ。
誰とでも話しはするが、八尋以外は全員知り合い程度の距離を保つ、人に対して潔癖みたいなちとせが、恋をして、こんなにも感情を乱すなんて。
「キモイよな、普通に。わかってるからさ、友達やめたいなら何も言わないで出てってくれると一番ダメージ少ないかもしれない」
ちとせは立ち上がり、机から離れて部屋の端のベッドに座りなおした。
八尋の方は何分経ってもその場から動けないまま、だんだんと腹部が痛くなるのを感じていた。顔色も悪かったんじゃないかと思うが、それに気付くことなくちとせは一人でべらべらと話を続けた。
「元々男が好きとかそういう訳じゃなくて、多分、あの人だからなんだ。八尋に対してどうこうは思ってないし、好きにならないから、それだけは安心してほしい」
そう言われて、逃げ場がないことを知った。
ちとせの覚悟は痛いほどに伝わった。男を好きになった苦しみや、八尋に嫌われるかもしれないという恐怖を乗り越えて口にしたのだろう。
そして、そんな覚悟を口に出させるほどまでに八尋を信用しているのだろう。
気持ち悪いとか、ありえないとか、冗談だろとか、笑い飛ばしてやったとして、この事実が嘘だったと笑えるわけではない。
なにをしたって、ちとせは自分のことを好きにはならない。
それをたった今、告げられたのだ。
「そんな顔すんなよ。俺はちとせが誰を好きでも何をしてても友達のつもりだし、応援する」
怖い顔で俯くちとせを見て流暢に嘘が出た。
「本気で言ってる?無理してない?」
無理しているに決まっている。1年半の片想いが最悪の形で打ち砕かれたのだ。
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