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「大袈裟なんだよおまえは、勉強しろ」
最初から叶わぬ恋だと思っていた。
きっとちとせはいつか誰かを好きになって、自分なんて友達でしかないまま終わるのは覚悟していた。
その相手が男だからって、自分にもチャンスがあったかもしれないなんて思えるはずはなかった。
椎名翔のことを思うちとせの表情があまりに強烈で、残酷で。
自分には一生かけたってそんな顔させられないから。
「八尋、いいやつだよなほんとに」
そう言う声も少し震えていた気がしたが、どんな表情をしていたのかはわからない。
その日はずっとちとせの顔が見られなかった。
「緊張したら喉乾いたし、冷蔵庫みてくる」
ちとせがそう言って部屋から出ていった。
いつも二人で笑い合うこの部屋で、一人きりになった八尋は心臓を抑えうずくまる。
そして一呼吸遅れて自覚する。
俺、野沢八尋はたった今、失恋したのだ、と。
ちとせが戻ってくるまでの数分が、やけに長く感じた。
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