よくあること

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目立つ2人だと思った。先生も、椎名翔も。 なんでもない教室の前で、少し前屈みになって熱心に話を聞く翔とそれを厳しい表情で見上げる先生。 ちとせ以外の人間だってふと目が止まるだろう。 ちとせは普通にしているようでいてさりげなく、翔の様子を伺いながら購買での買い物を終えた。 「今日買いすぎじゃない?」 オムそば弁当、菓子パン2つとシュークリーム、そして牛乳を買ったちとせはそれらを両手いっぱいに抱えた。 何か持ってやらないと落とすだろうと手をかけるが心配は遅かったらしく、弁当以外のものをばたばたと落としてちとせは慌てふためいている。 床に転げる食料たちを救ってやろうとしゃがみこむと、目の前でいちごジャムパンが別の手に拾い上げられた。 「派手にやらかしてるやつがいると思ったら新島だ」 「翔先輩、ありがとうございます」 数分前まで美術教諭と話し込んでいた翔が、遠くでキラキラを振りまいていた翔が、いま目の前でちとせだけを見て優しく微笑む。 「どう考えても買いすぎ。お前のほっそい身体のどこにこれが入るんだよ」 翔は角張った大きな手でいちごジャムパンをちとせのもつ弁当の上に置いた。 「あとは相棒にもってもらいな。それじゃ」 ひらひらと手を振って八尋たちと反対方向へと向かう翔。 「あ、翔先輩!」 ちとせは翔を引き止めたが、どうしたのと聞かれると、歯切れ悪くやっぱりいいですと俯いた。 八尋はそれをただぼんやりと見つめながら、空腹で起こる目眩のような、そんな不快感を味わっていた。
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