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「今年のうちのクラスから有志として選出する2名なんですが、昨年演劇に出ていた新島君がいるのでぜひ……」
視線がちとせの元へと集まる。
「悪いけど今年は出ません」
クラス中がザワついた。
誰もがちとせがやると思っていたのだ。
「そ、それじゃあ……去年は確か野沢君も演劇のセットの準備のために出ていたと思うので今年もぜひ……」
去年八尋は2名のうちの1名に立候補した。別々のクラスで会う時間も減ってしまっていたちとせが一緒がいいと頼みに来たからだ。裏方の仕事もあると言われしぶしぶ名乗り出た訳だが、翔とちとせが仲睦まじく接するのをただただ近くで見せつけられるだけの地獄の時間を味わう羽目になるだけだった。
「いや俺、去年も好きでやったわけじゃないし無理です」
そう断ると、クラスから悲鳴があがった。
どうやら八尋達が断ると思っていなかったらしい。
消極的なこのクラスの人間は、顔とノリの良い、いわゆる陽キャだけが参加できるこの演劇に参加したいと思わないのだろう。
名乗り出る者がいないままこの議題は置き去りにされ、クラス出店がたこ焼き屋に決まり、八尋とちとせは屋台作りを担当することとなった。
「楽そうな仕事ゲットできてよかった」
どうにも機嫌が良いらしいちとせが八尋の方を振り返り笑う。クラスの空気も和らぎ文化祭への期待がふくらむばかりの様子だ。
「演劇の有志が決まらないとホームルームが終わらないぞ〜」
あまり口出しをしていなかった担任が声を張る。
クラスの住人達が気まずそうにあちこちに目を配り、目を逸らし、誰も口を開こうとはしない。
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