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24度
「八尋は、俺がどんなやつでも友達でいてくれる?」
今でもはっきり覚えている。
高校一年生の夏だった。期末テストの勉強中、24度に設定されたエアコンがやけにうるさい中のこと。
ローテーブルの向こう側に座る親友が、歯切れ悪くそう言い出したのが始まりだった。
「なに、今さら」
珍しいなと思った。
自分から悩みや考えは言わないタイプで、別に平気だよって平然と言ってしまうようなやつだったから。
「答えろよ……」
キラキラと光を集める瞳が真っ直ぐにこちらを捉えている。
長い下まつげはくるりとカーブしていて、小さな唇は力が入り震えていた。
「今さらお前と他人になんてなれないだろ、なんでそんなこと聞くの」
計算式を書いて、引いて、かけて、足して、答えを書き込む。カチカチとシャーペンの芯を出す、次の問題を解く、ペットボトルの緑茶を飲む。
八尋はそんなふうに次の言葉を待っていたけれど、あまりに口を開かないから名前を呼んだ。
「ちとせ、なんか悩んでんの」
顔を上げ、ちとせの表情を伺うと今まで見たこともないような顔でこちらを見ていた。
眉間にシワがよっていて、口を開けたまま軽い深呼吸みたいに息をしていて、たまに目を瞑り、ため息をついていた。その一つ一つの動作を見て、八尋の方まで顔を歪めた。
「本当にどうかしたの、具合悪い?」
ちとせは24度の部屋で汗ばんでいた。
対して八尋の腕や首元はひんやりと冷えきっていて、居心地が悪かった。
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