水割りは2cm

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 テーブルの上に、ウィスキーとグラス、氷の入ったバケツとマドラーが置かれている。  弘典は、ジャケットにシャツ、ネクタイとスーツをフル装備してすでに着座している。  なんでこんなことに。剛士は苦い顔でテーブルを見た。 「ん」  弘典が顎で、始めるように促す。  剛士は天を仰いで、大きく息を吐きだすとテーブルに向かった。 「いらっしゃいませ~」甲高い声を出して剛士は席に近づく。なんだこれは、と自問しながら。 「お隣いいですか~」と言いながら弘典の隣に座った、が、彼の視線は冷たい。せめてお客は前向きに参加してくれないか、と胸のうちでため息をつく。  剛士はテーブルの上のグラスと氷のバケツをとって「水割り、どのくらいでお作りしますか~?」と尋ねた。なんだこれは。ともう一度自分に問う。 「そういうふうにやるんだ」低い声で弘典が言った。「さすがによく知ってるな」  キャバクラに行ったのが昨日の今日なので、しっかりと再現してしまった。藪蛇だった。
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