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身震い
もうすぐ駅に到着しそうなところだった。後ろから急に話しかけられて私は身震いをしてしまった。
「すみません。先に書店を出られるのだったら声をかけてくれれば良かったのに」
振り返ると先程本屋で会話をした男性が立っていた。
「えっと、読書に集中しておられたので、声をかけると申し訳ないと思いまして」
そもそもそこまでの関係じゃないしと思いつつ、当たり障りのないことを口にした。
「まあいいです。そういえば僕、名前を名乗って無かったですよね? 僕の名前は坂畑公誠です。この近くの銀行に勤めています」
強引にも程があると思いつつ、ああそうなんですねと適当なことを言った。
「ああなるほど。私もこの近くの会社に勤めています」
もうこれ以上の個人情報は言いたくない。この人は何でこんなに踏み込んでくるんだろう?
「また明日も春夏秋冬に来られますか? また会いたいです」
「ああ、はい。たぶん行くと思います」
私は心の中でもう春夏秋冬に行くことはないだろうと思っていた。
「僕はJRで帰るのですけれど、何で帰られるのですか? あと、名前を伺ってもいいですか?」
「私は地下鉄です。名前は……棚野です」
本名を言うかどうか迷ったが、嘘をつくのは良くないかなと思ったので正直に言ってしまった。
「棚野さんですね。同じJRだったら良かったのになあ」
坂畑さんには申し訳ないと思ったが、私は地下鉄で良かったと強く思った。
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