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先輩と受付嬢の話1
「篠井さん」
きょろきょろしている受付嬢に気付いて声をかけた。あーあ。こっち組でしたか。残念でしたね。
「ん? あれ? 青井君? そこにいたの? さっきから? 一人? 何で? 梨央ちゃんは?」
「今先輩から連絡があって、あっちの二人は会えてるらしいですよ」
土曜日の朝。彼女(+α)に会う予定だったのに一番最初に顔を合わせたのは受付嬢だった。あー。この人も自分と同じ勘違い…というか思い込みをしたんだなと苦笑い。分かります分かります。集合時間過ぎてますもんね。他の二人が遅れているの、おかしいですよね。その上、自分だけがここにいるの不思議ですよね。思った通りこの状況が許容できないのか、受付嬢は怪訝そうな顔で首を傾げた。
「え? 何? どういうこと?」
「集合は南口って言われたでしょ」
「南口じゃない」
「ここは東口です」
「南口よ」
「南改札を出て、西口と東口に分かれるんです。ここは南改札を出た後の東口」
「??? つまり改札前で待ってろって言ってたって事? 先輩」
「みたいですね」
「分かり辛くない?」
「梨央ちゃんはちゃんと改札で待ってたらしいですよ。西口と東口があって分からないって」
「だってこっちの方が栄えてるから」
「そういう勝手な思い込みで来ちゃうんですねー。俺ら」
「一緒にしないでくれる?」
「一緒じゃないですか」
「大体、何で梨央ちゃんと一緒に来ないの?」
「反対方向から来るから集合場所で合流しようと思ってたんです」
何が悪いんじゃい。と、思わず言いそうになった時だった。
「あれ?」
「…青井?」
声をかけられて受付嬢から顔を逸らした。見た事のある顔が二つ。おい。朝っぱらから腕を組むな。
「煩いと思ったらやっぱり青井だー。久し振りー! 変わらないねー! 一ミリも!!」
「元気だったか? 元気そうだな。どうせ元気だろ?」
俺の回答を全く欲していない挨拶して二人は笑った。相変わらずだな。そっちも。
「…久し振り」
と、とりあえずの挨拶をしたら二人は受付嬢を見て目を丸くする。そして黙って顔を見合わせて頷いた。もう何を考えているのか聞かなくても分かる。
「青井。そうか」
「何が」
「みなまで言うな。良かったな。こんな綺麗な人と」
「ちょっと待て」
「お似合いだと思う」
「うん。何かしっくりくる」
「初めまして。青井の高校の同級生です」
「不束者ですが青井を宜しくお願いします」
と、頭を下げて勝手に何かをお願いしている。やめろ。
「何の真似だ」
「同級生としてご挨拶を」
「結局そうか。そうだったんだー。青井」
「訳の分からない話を勝手に進めんな。先に言っておくけど俺、佐倉と別れてないからな」
「え」
「別れてない?」
二人は呟いて顔を見合わせた。それから受付嬢を見て目を丸くする。
「そうしたらこの綺麗なお姉さんは?」
「お姉さん? 全然似てないけど」
「ねーちゃんいねーし」
さて、どこまで言ったらいいものかと思ったけれども詳細を言う必要も無いのでぶった切った。
「とにかく変な誤解すんな。佐倉にまた変なこと言ったらぶっ飛ばすからな」
「またって何だ」
「一度も変なこと言ったことはないよ。うちら」
「変な事しか言ってないだろお前らは」
「青井君…」
完全にほったらかして言い合いをしていたら、俺にだけ聞こえるように呟いて受付嬢がため息をつく。そっちを向いたら黙ってうんうん頷いた。何? その、やっぱりね。分かってる。の顔は。何も分かってないでしょうが。
「じゃあ、何でこんな綺麗なお姉さんと一緒にいるの?」
「そうだそうだ。佐倉を差し置いて」
「差し置いてないし。佐倉もすぐに来るっての」
もうすぐ後ろにある階段を先輩と下りてくる。客先から水族館の入場券を四枚貰って、二回行くのも何だし、彼女が受付嬢に確認したらOKだというので、じゃあ受付嬢も顔見知りの先輩は? と、こちらも確認をしたらあれよあれよと四人で行こうという事になってしまった。それは全然良いし楽しみだけど集合から全然上手くいってない。
「ええー? 青井、変わったね…」
「彼女とお姉さんと三人で出かけるとか遊び人か。遊び人みたいな顔はしてたけど信じてたのに」
全然信じている感じがしない。
「あのなぁ…」
「ちょっとー。変な誤解しないで」
不意に受付嬢の声が聞こえてきた。三人でそっちを見ると、ちょっと頬を膨らませてこんな事を言う。
「青井君、そうだったんだー。やだー。でも私までそう見られるのは心外だわー。私にだってちゃんと彼氏がいるんだから巻き込まないでくれるー?」
「えっ」
その言葉に滅茶苦茶驚いてしまった。彼氏いるの? それなのにこんなところに来て良いの? そりゃ二人きりじゃないけど、こっちはカップルなんだから先輩と行動することになるかもしれないのに。それとも女同士で行動するつもりとか? 彼氏それで許すの?
…と、色んな事を思ったけれど聞く暇もなかった。
「すいません。お姉さん。うちの青井が」
「誠に申し訳ございません」
「しょうがないわねぇ」
と、何となくその場が治まった時だった。
「いたいた。…あ、一緒にいるじゃん」
「果歩さん。瞬く…」
あれ? と、彼女の足が止まる。そして旧友を見て目を丸くした。
その後、すったもんだという言い方が当てはまるかどうか分からないけれども笑い話でその場は終わり、四人で水族館を楽しんだ。まぁ、そこだけ切り取れば本当に楽しかった。四人共。
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