二人の話4

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二人の話4

 何でこんなに愛してくれるんだろう。と、言われた通り自分も相手に触れながら思う。この人といると凄く体が疼く。多分、そういう風に触れられているから。それとも体が快感を覚えて反応してるのかな。不思議なくらい、貪欲にこの人が欲しい。  自分は、まだ何もできないのにな。と、顔を上げさせられて思う。癒すことも、気持ち良くなって貰うことも経験不足で何もできない。それなのに疲れている相手が自分にそれを与えてくれる。それを申し訳ないと思う余裕も今はなかった。キスをされて、褒められているみたいって自意識過剰なことすら思う。  その全部が相手に伝わっていて、物理的な触れ合い以上に響いていることを知らない。同じ様に自分にも。  それで体が変わることも知らない。 「果歩」  先輩を受け入れて、じんわりと感じてる体を噛みしめていたら声が聞こえてくる。いつか直でしたりもするのかな。って、ぼんやりと思っていた。そうしたら今と何か違うのかな。こんな不思議な刺激は他にない。この先にも、まだそういう初めてがあるのかな。 「こういう事するの好きになった?」  まだほんの数回。そう言えばこれを経験する前は怖くて、逃げていた自分もいたことを思い出す。この人に抱かれて全部が変わった。 「うん」  と頷くと、もう少し奥まで入り込んでくる感覚と、同時にゆっくり抱き締めてくれて、縋るように先輩にしがみついた。 「あ…ん……ん、ん…ん…」  目を閉じて繋がっている部分に集中すると幸福感が体に満ちてくる。自分はこの人のことが本当に好きなんだと体が教えてくれる。いやらしいとか気持ちいいとか、そういう印象でしかなかったこの行為が、自分にとってそれだけじゃない事を知った。触れ合うと直接愛を貰える気がする。  抱き締めてキスをしてくれて、満たされるといって、また注がれて。  もっとして。と、手を伸ばす。その手に指を絡めて押さえつけられて、隠すこともできない体に沢山キスをしてくれる。意地悪な先輩は怖い程感じさせてくれる。 「…ん…う…」  何でこんな風になっちゃうんだろう。先輩には見られたくない表情は、先輩にしか与えて貰えない。  混乱する。 「本当に感じやすいよね」  震えた自分の髪を撫でてくれて先輩が呟く。感じやすい? そうなのかな。他の人と比べた訳じゃないからよく分からない。先輩が触ってくれれば全部気持ちいいのは確かだけど。 「敏感で可愛い」  その言葉が嬉しい反面、少し違和感を覚えた。…ちょっと待って? この人もしかして勘違いしてるんじゃないの? 「私、感じやすくなんかない…」 「そう?」 「うん」 「何で否定するの? こんなに何回もいってるのに」  そう言って先輩が動く。ゆっくり動かれても体が反応する。それを抱き締めるように感じて深い息を吐いた。本当に気持ちいい。そんな自分を見て先輩が笑う。 「いくの嫌?」 「…そうじゃなくて…」  知っていて。違うの。 「壮大君が触るからこうなっちゃうだけで、私の体がいやらしいみたいに言わないで」  誰にでもこうじゃないの。経験ないけど絶対そう。ちょっと泣きながらそう言ったら先輩は固まった。 「…ごめん」  ぎゅう。と、きつく抱き締めてくれて先輩が呟く。 「そういうつもりで言ったんじゃないけど」  分かってる。でも嫌だったの。 「まさかそんな事言ってくれてるとは思わなかった」  …ああ。そうか。この人凄く疲れていたな。と、不意に思い出す。それに先輩は、別に失言した訳でも馬鹿にした訳でもない。むしろ喜んでくれていたのに変な意地を張ってしまった。  こっちこそごめんね。と思う。なでなで。と髪を撫でた。もしかしたらこれが最後の一押しだったのかな。 「…果歩」 「ん?」 「俺と結婚してくれない?」  …ん? 何て言った? け?  …え? 結婚って言った? 今。嘘。自分の耳が信じられなくて何も答えられずに震えていたら、先輩が目を合わせて言う。告白してくれた時みたいに。 「ね。駄目?」  冗談じゃなかったみたい。でも、だって…。 「…え?」  告白された時と違って今なら確実に分かる。そんな事、今の今まで考えていなかったよね? 仕事が忙しくてそんな事考える余裕なんてあった筈がない。一日一日精一杯で、今日だって疲れ切っているじゃない。付き合った期間だって長くはないし、それに私…。  私が? 先輩と? …えええええ? 「…壮大君?」 「ん?」  あ。この人、本気だ。戸惑っている自分が何を言っても受け止めてくれそうな冷静な声。でも、何で急に…。 「そういうの、思ったらすぐに…言う、ことじゃ……ない。よ? …きっと」  何の返事もできなくて、逃げるようにそう呟いた。自分の感情は理解できるけど、今はそれを渡せない。泣き顔を見られたくなくて先輩にしがみ付いた。つまりそれくらい、この人は安心できる人。 「…じゃあ、いつならいいの」  その自分を許して抱き締めてくれる。もっと泣きそうになった。 「…今でも、本当は良いんだけど…」 「何それ」  と、少し笑いながら先輩が呟く。さっきしたみたいに髪を撫でてくれながら。きっと上手く言えない気持ちまで全部理解してくれている。だから笑ってくれているんだよね? 「もしも覚えていたら、後でもう一度言って?」 「…分かった」  そう言って先輩が体を起こす。涙を拭ってくれて、何故か少し満足したような顔が見えて安心した。キスして欲しいな。そう思った自分にキスをくれる。本当に甘やかされているなと思った。  その後も沢山愛してくれて、言葉もくれて、それを全部受け取った。そう言えば私、一度も言ってなかったかもしれない。好きだよと言ってくれた言葉に呟いた。 「私も壮大君の事、大好き…」
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