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二人の話10
「はー。そうですか。……で?」
と、不貞腐れて呟いた後輩君に、何故か申し訳ないと思いつつ現状の説明をする我ら。
「だから別に、その、すぐにどうこうって訳じゃないんだけど、お互い親が物凄いプッシュしてくるし、まぁいずれそうなるなら今から情報収集しておこうかって…色々と…」
住む場所だけでなく、実は式場や旅行や手続きの事まで調べたりしている。これからデートついでにあっちこっち見に行こうなんて話してて、これはこれで結構楽しみ。…とは言えない。そこまで言ったら後輩君の嫉妬は爆発するだろう。
「へぇー。そうなんですか。ふーん。そいつぁー良かったでございますねぇ…って言うと思いました!? 言う訳ないでしょうがー!」
いや、既に爆発してた。何かごめん。
「先輩、本当に肉食系だったんだー! そんな感じ見せずに裏でこそこそやることやってるなんて見損なったー!」
そこ、見直したじゃないんだ。そうなんだ。
「お前も挨拶行けばいいじゃん」
「うわー。いきなり上から目線! 半年くらい前までは彼女もいなかったくせにー!!」
うがー。先輩であることを忘れているのか、後輩君はジタバタと暴れだした。小声なので理性は残っている模様。
「すいませんでしたよ」
と、大人の対応をした先輩にまたイラっとしたらしい。きっと睨んだものの、更に攻撃する力は無かったようだ。今度はうつ伏せて嘘泣きしだした。
「俺だって梨央ちゃんの両親に挨拶したいー」
すればいいじゃん。とは誰も言えない。あーあ。と、ため息をつく自分達の前で、その彼女がもじもじしている。そして小さな声で呟いた。
「…あの…瞬君…」
「! あ、ごめん。別に梨央ちゃんのせいじゃなくて。全然待てるし!」
がばっ。無事に復活。相変わらず甘めーなー。知ってたけどさ。
「そうじゃなくて、あの…」
もじもじ。また彼女が躊躇っている。あれ? 大丈夫か? どうしたの?
「え? 何? ごめん。ちょっと言い過ぎた」
「ちが、違くて…」
もじもじ。
…え?
最早見慣れた赤面の彼女を、三人で微動だにせずに見ていた。もじもじ。やがて意を決した様子の彼女が口を開く。
「あの…あたし、ほ…本当は…一緒に住む前に、両親に挨拶して欲しいって思ってて…」
おや? と、関係ない二人は目を丸くした。後輩君は目を丸くすることもできずに固まっている。
「でも、そういうの、男の人は嫌かなって思って言えなくて…それに、まだ先の話だから後でお願いしようと思ってたんだけど…」
「…え」
「あの、こ、こんなところで、ごめんなさい」
手で顔を隠した彼女の動きに全員が息を吹き返した。えー!? マジでー!?
「良いの? 行って良いなら何回でも行く!」
いや。一回で済むだろうよ。と、受付嬢は思った。お前、どこにも隙が無いんだからさ。
その目の前で、完全に二人の世界状態の後輩君は彼女の手を取ってこんな事を言う。
「結婚の話になるかもしれないけど本当に良いの?」
馬鹿。お前、こんなところで何を聞いてるんだ。と、先輩方は思った。けれども誰も止められない。まぁ、そっちの話は済んでいるんだろう。流石に八年も付き合っていればねー。
「…」
彼女再び沈黙。もじもじ。もじもじ。可哀想に。こんなところで答えさせるなよ。と、思ったけれども部外者の二人は何もできない。黙ーって見ていたら、やがて一生懸命という感じではっきりこくんと頷いた。わー。良かったねー。
「本当にー!?」
ぎゅーっと彼女を抱き締めて後輩君歓喜。やめろ。例によって半個室だから外からは見えないけどうちらが見てる。
「良かったねー」
「どうでも良いけどうちの衛生士さっさと放してくれるー?」
かつてない程真っ赤っかになってる。やめて上げてよー。
「人生最大の喜び噛みしめてるんで邪魔しないで下さい」
ぎゅううぅー。聞きゃしねえ。
「俺らのことボロクソ言ってた癖に」
「誰のお陰で人生最大の喜び噛みしめられてると思ってるんだろうねー」
「梨央ちゃんのお陰ー」
すーりすり。そうだね。お前は間違ってはいない。その梨央ちゃん、失神寸前だぞ。
「とりあえず話は終わったんだよね?」
「じゃあ、オーダーしようか」
遅れてきた男二人は飲まず食わずで話に参戦していたので空きっ腹。かく言う女二人も飲み物一杯で二人を待っていたので空きっ腹。その胃にまた砂糖突っ込むつもり? やめてくれ。いそいそと二人でメニューを覗き込んだら後輩君は口を尖らせた。
「先輩方には分からないんですよ。どれだけこの時を待った事か」
「はぁ。そうですか」
「そうですよ。あー。幸せー」
なーでなで。あのさ。大好きな彼女愛でるのは良いんだけどさ。
「ねぇ。梨央ちゃん息してる?」
「え? …わー!! 梨央ちゃん!!?」
きゅう。と、ダウンした彼女に後輩君大慌て。馬鹿だねー。頭は良いのに本当に馬鹿だねー。と、二人冷めた目で言ってやった。
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