おまけ

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おまけ

※これは受付嬢が先輩のお家にご挨拶に行った後のお話です  お邪魔しました。と挨拶をして家を出た。二人で駅に向かって歩き始めて、受付嬢は体が萎む程大きなため息をつく。はぁぁーーーああぁぁ。 「どうしたの?」 「先輩…」 「ん?」 「どうしよう。ご両親、大丈夫かな」 「え?」  どう見ても大丈夫だろう。と思いながら先輩は黙った。あの二人のあんな顔見たことないぞ。「可愛い」「可愛い」って顔に書いてあったじゃん。けれどその沈黙に受付嬢は絶望したようだ。立ち止まり、半べその顔で先輩を見上げる。 「呆れられちゃってないかな。先輩みたいに全然ちゃんと話せなかった」  それはそれで良かったんじゃないか? それも含めて可愛い可愛いってにこにこだったと思うけど。 「うちの親、怖かった?」 「ううん」  ぶんぶんと首を振ってから受付嬢はしおしおと泣きながら言う。 「でも、優しいご両親だからそういうの見せなかっただけで。本当は『あの子大丈夫?』とか思ってたら先輩にもご両親にも申し訳なくて」  凄い心配してる。可愛いな。と、先輩は不謹慎なことを思った。 「そんなこと言ったら俺だってそうじゃん」 「壮大君のことはうちの両親べた褒めだったもん。来てくれた時だって凄いちゃんとしてたし」  敢えてその後のことは聞いていなかったけれど、それを聞いて先輩は今更安心した。それなら良かった。  うーん。 「じゃあ、帰ってからどう思ったか聞いてみようか?」 「う…」  それは怖い。と、受付嬢は黙った。でも気になる。 「あの…敢えて聞かなくても良いのですが」 「うん」 「もし、何か言われたら教えて」 「分かった」 「隠さないで教えてよ?」 「うん」 「絶対だよ?」 「うん」  そして再び二人で歩き始める。受付嬢はまたため息をついて独り言のようにこんなことを言った。 「壮大君が、直さなきゃならないところがあるなら早めに知りたいって言っていた意味が何となく分かった…」  しょぼしょぼ。物凄く下を向きながら力なくそんな事を言う受付嬢を見て、本当に可愛いな。と、先輩はまた不謹慎なことを思った。  さて。その夜。  電話出ない…。と、受付嬢はスマホを耳から離してベッドにころんと転がった。タイミングが合わなければそういう事も珍しくないけれど、今日は余計なことを考えてしまう。私に言い辛いことがあって避けてたりして。まさか付き合いを反対されたりとかしてないよね。「もうあの子と連絡を取るんじゃありません!」とか? ええー。私、そこまでやっちまったかな。でも、そういえば先輩頭抱えたり、ご両親もこそこそ何か話してた。何をやっちまったんだか分からないけどやばい気がしてきた。どうしよう。もしかしてまだ家族会議中だったりして。マジで!? 何時間話し合ってるのよー!!  その時電話が震えて受付嬢は飛び起きた。見ると先輩の名前。うう。どうしよう。でも話をしなきゃ。とりあえず自然消滅とかにならなくて良かった。と、ふるふる震えながら電話に出た。 「…もしもし?」 「あ。ごめん。電話出れなくて」  はぁー。と、先輩のため息が聞こえてくる。え? 何? どうしたの? 「あれ? もしもし?」  何も言えずにいた受付嬢を不思議に思ったか、先輩の声が聞こえてくる。その声に我に返った。 「あ…うん。はい」  駄目だ。これは絶対何かある。と、受付嬢は察して正座をした。何だろう。自分にどうにかできることだったら良いな。 「どうしたの?」  と、先輩の声が聞こえてくる。優しくて落ち着く声。ずっと聞いていたい。先輩。未熟者でごめんなさい。頑張るから別れるとか言わないで。 「ご両親に何か言われたでしょ」 「…え?」 「何て言われたの?」 「…何、急に」 「だって壮大君、変だもん。何か、私に言い辛いこと言われたんでしょー!」  ぴえー。と、いつかの様に泣いてしまった。変なところで鋭い。と思った先輩は無言。その沈黙で間違いないと分かった。何言われたのー!! 「何? 教えて」 「ちょっと落ち着いて」 「落ち着いてるから言って。何て言われたの?」 「先に言っておくけど、心配するようなことじゃないから」 「じゃあ、何でいきなりため息なんかついたのー!?」  何だこれ。痴話喧嘩かよ。と思いながらも止められなくて先輩を責めた。 「壮大君、困ってるんでしょ? 言い辛いんでしょ? 絶対良くないことじゃん。教えてってば!」 「言い辛いけど良くないことじゃ…」 「そんな事ある訳ないでしょー! 隠さないで教えてくれるって言ったじゃんー!!」  うわぁぁー。じたばたじたばた。時々思うけど、私一体幾つなのー?  そのじたばたの音まで聞こえていた先輩は、また大きなため息をついた。駄目だ。もう何言っても駄目だ。本当にもー。 「分かったよ。じゃあ言うけど、うちの親はさっさと結婚しろって言ってました!」 「け」  …。  予想外の言葉に固まっていたらまた先輩の声が聞こえてくる。 「あんなに可愛くていい子はいない。お前が退屈な男ってばれる前に結婚してもらえ! だそうです。これで納得した?」 「…」  その言葉を聞いて、受付嬢はスマホの画面を見た。そして、そこに先輩の名前があるのを確認してからほっぺたを引っ張った。痛い。  ぼふん。と、電話越しに音が聞こえてきた。あ。倒れた。と察した先輩は暫く待った後、こう言った。 「他に何か言いたいことはありますか?」 「…壮大君」 「はい」  震える声に、受付嬢の表情を想像する。見たいな、と思うけれど声だけ聞こえてくるのも悪くはない。 「すいませんでした」 「はい」 「…あと……」  また沈黙。でも、少しだけ鼻をすする音が聞こえてくる。この子、案外泣き虫なんだよな。そう思いながらその音に集中していた。やがて震える声が聞こえてくる。 「良かった…です。嬉しい」 「うん」 「私も…」  そう言いかけて、受付嬢はまた黙った。そして長い沈黙の後、また小さな声が聞こえてくる。 「何でもない」 「それは狡いんじゃない?」  と、笑ってしまった。見逃して上げても良かったけど、もう少しこの声を聞いていたい先輩はちょっと意地悪をする。むー…。と、小さく唸る声の後、内緒話みたいな声で受付嬢が言った。 「同じこと言われたの。親に」  思ってもいなかった言葉に驚いた。でも、受付嬢の気持ちをはっきりと共有できた。そうか。こんな風に嬉しかったのか。  ああ、やっぱり会って話をすれば良かったな。と、後悔をした。この気持ちごと、嬉しいのに泣いている受付嬢を抱き締めたかった。 「そっか」 「うん」 「何で教えてくれなかったの?」 「…それ言われたの、結構後だったんだもん」 「へー」 「それに、その時はご挨拶行くって決めた後だったからそれどころじゃなくて」  それどころじゃないって。こっちはそれどころなんだけど。 「じゃあ、後は果歩次第だね」  こんなにトントン拍子に話が進むとは思っていなかったなぁ。と思いながら先輩が呟く。 「ええー…?」  そんなぁ。それ、私が「心の準備できた!」って言うの? 何か変だし無理。 「でも待ってくれるんだよね?」 「待つよ。俺はね」 「…そうだよね。壮大君はね」 「うん」  …親がねぇ…。と、二人は言わなかったけれど全く同じ事を思った。
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